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素朴な音色が聞こえてくる

浜松市 伊藤様邸(撮影時 築7年)

「2010年 花家族29号より」

 

坂の上に車を停め、細い下り坂となっているアプローチを下りてゆくと、迎えてくれるのは緑生い茂る小さな森の入口。

木々の向こうに見え隠れする伊藤邸は、喧噪から離れた別世界に佇んでいるかのようです。ご主人のおじい様もお父様も代々、盆栽や花木がお好きだったことから、ここには様々な木が植えられ、ご主人もまた同様に、ご実家から地続きの自宅にたくさんの植栽を施していらっしゃいました。

昔からある物を大切にしたい

 

そして玄関先に立つと感じるどこか懐かしい感覚。

「古い家が好きなんです。それも農家のような。なんならこの軒先に玉ねぎを吊るしてもいいくらい」とご主人。なるほど、そんな想いから、ヨーロッパの片田舎で見かけるような素朴なこの家が生まれたことも頷けます。

家だけでなく、昔からあるものを大事にしたいというご夫婦の想いは、娘さんへも注がれています。

「自分達の世代が見たり触ったりしてきたものを、娘にも体験してもらいたいなと思って」

 

そうお話いただきながらリビングに目を移せば、壁にかかるのは振り子のぜんまい時計。また、リビングの準主役とも言えるのが威風堂々とした薪ストーブ。冷えこむ冬の日に、「火の番をしながら炎を見ていると、飽きないんですよね」とご主人が言えば、奥様も「火の形にはひとつとして同じものはないですよね。時々、オイルランプも主人につけてもらうんですけど、炎の揺らぎっていいなあと思います」

7年の時を経て飴色に味わいを増したフロアに置かれたのは、年代物のレコードプレーヤーです。聞けば1940年代頃のイギリス製だとか。丁寧にぜんまいを巻き、レコード盤を傷つけないように優しく手動でレコード針を下ろす操作は、ボタンひとつで動くデジタル機器とは全く違う趣きがあります。

音楽好きなのは娘さんも同じで、6歳からピアノを習っているそう。ご主人はギターやベースも弾くなど、演奏もお好きなだけあって、「いつか親子で一緒に曲を弾けたらいいな」とも。

暮らしの手間を親子で楽しむ

 

庭の草や木はご主人が進んで刈り込み、奥様と娘さんが一緒に片付けるあたりも、暮らしの手間を親子で丸ごと楽しんでいる伊藤さんご一家。

大切に育てたつるのバラの一輪が窓の下から顔を出し、レコードの音色に合わせて揺れているようでした。

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